VOCALOIDいじりのための調律・ミキシング・発音講座

How to apply just intonation to Vocaloid (English)

目次

1. はちゅ~んを使いこなそう:調律編

2. サラウンド効果向上委員会:ミキシング編

3. いろんな言語で歌わせたい:発音記号編(英語DB用)

These contents are under Creative Commons Attribution, Noncommercial, Share Alike License ver. 3.0 ( CC BY-NC-SA ver. 3.0 ), the author is ジャコウネズミ (DAIGO-P).

1. はちゅ~んを使いこなそう:調律編

注意:これはVOCALOIDの調律のために書かれたもので、楽典とは異なります。
    はちゅ~んのダウンロードはこちらから

まあ、騙されたと思ってtune.xlsx (Excel2010バージョン)またはtune.xls (Excel97-2003バージョン)をDLしてください。Excelですがマクロとか一切ないですから。
開けました?じゃあ、話を先に進めますね。
以下、「○長調」の○(主音)をド、「×短調」の×(主音)をラと呼ぶことにします。
長調でも短調でもない音階はいくらでもありますが、出てきたら主音をドとします。

1-0 最初に結論
調律の手助けとして、「はちゅ~ん用純正律キット」を作りました。

1-1 最も理論的な音律:ピタゴラス音律 (Pythagorean Tuning)
実際の調律で使うことはまずないんだけど、ピタゴラス音律のシート見ていただけますか?
PITの値が見事に80の倍数になっていますね(PBS=2の場合)。これは完全5度の周波数比を3:2とする、という規則だけで作った音律なのです。
ド→ソ→レ→ラ→ミ→シ→ファ#と3/2倍(オクターブ上がったら2で割る)を積み重ねるとPBS=2として+80ずつ平均律からずれていき、
ド→ファ→シ♭→ミ♭→ラ♭→レ♭→ソ♭と2/3倍(オクターブ下がったら2をかける)を積み重ねるとPBS=2として-80ずつ平均律からずれていくわけです。
この並び、譜面で#をつける順番、♭をつける順番と同じですね。
西洋の音律がこのピタゴラス音律の不具合(汚い和音ができてしまう)ことを解消しようと発展しながらピタゴラス音律に敬意を表しているわけです。
ちなみに古代には不便な音律を使っていた、というのではなくて5度のハモりが重要視され、3度というのはあまり和音として捉えられていなかったので問題無かったのです。
 参考:wikipedia ピタゴラス音律

1-2 主3和音が見事にハモる:純正律 (Just Intonation)
長調の純正律では周波数比で表すとI(ドミソ)、IV(ファラド)が、V(ソシレ)の3和音の周波数比が全て4:5:6になっています。
短調の純正律では周波数比で表すとI(ラドミ)、IV(レファラ)が、V(ミソシ)の3和音の周波数比が全て10:12:15になっています。
純正律はこの3和音を綺麗にハモらせるための音律で、半音階はピタゴラス音律からとって埋められています。
 参考:wikipedia 純正律

1-3 平均律以外に汎用性の高い音律はないのか:ジャコっぽいど
3和音以外の和音や、転調が当たり前の近現代曲では純正律を押し通すことには無理が生じます。
器楽曲では中全音律キルンベルガー第3法 (Kirnberger III) などの様々な調律法、そして平均律が生まれたわけですが、
アカペラ合唱の場合、よりハモったほうがよいだろうし人間は自然とハモりで音程を調整するので、平均律がベストとは言えないのではないか、とわたしは思っています。
もちろん、転調するたびにその調の純正律を適用することも可能です。
しかし、同音でピッチがたびたび変わってくるのは聴いていて気持ちが悪い、という耳の良い方もいらっしゃいます。

そこで登場するのがジャコっぽいど。

あまり大したことはしていません。基本的には長調と短調の純正律を合体させることでピタゴラス音律から借用していた半音階をより簡単な周波数比に置き換えただけです。
でも、これにより長調⇔短調間の転調、長調同士、短調同士の転調がとても楽になります。
基本となる調を決めてジャコっぽいどをはちゅ~んで適用すれば、転調があってもかなりうまくハモってくれます。
ジャコっぽいど(長調)を五度圏図に表したのがこれになります。 ただ、長調⇔短調間の転調でのファ#(45/32)とソ♭(64/45)は切り替えが必要かもしれません。
また、古楽でのファ#は7/5としたほうが耳に馴染むようです。
さらに、現代曲にみられるトーンクラスターでも、平均律よりはこうした何らかの整数比を持ったピッチの方が聴きやすくなるようです。

1-4 ジャコっぽいど応用編
ジャコっぽいどには応用編をつけています。
1. 主要3和音のうちどれかが不使用の場合
 V(ソシレ)が無い曲に使った例。シとレがソに対して純正3度、純正5度である必要がなかったので、シとレをミファラにより馴染むピッチに変えてみました。

2. ジャコっぽいど民族調
 この音律ではラ・シ・ド#・ミ・ラ♭からなる和音、ラ・ド・ミ♭・ファ・ソからなる和音、ラ(またはシ♭)・レ・ミ・ソ♭からなる3系統の和音が存在します。

 ジャコっぽいど古典調律を適用した曲:Jocob Arcadelt (1507-1568) : Nous voyons que les hommes
 ジャコっぽいど通常調律を適用した曲:Richard Strauss (1864-1949) : Deutsche Motette
 ジャコっぽいど通常調律を適用した曲:Sven-David Sandström (1942-) : Agnus Dei(トーンクラスター)
 ジャコっぽいどソシレなし用を適用した曲:Knut Nystedt (1915- ) : Sing and Rejoice(調律さらにいじっちゃったけど)
 ジャコっぽいど民族調を適用した曲:DAIGO-P : 夕焼け

1-5 まとめ
アカペラ合唱でもI, IV, V以外の三和音、減三和音、セブンスコードなどが使われることもあります。そこで、使われそうな音程を「まとめ」に集約しました。

Major, Minor, Augmented Triad (増三和音), Sixth, Seventh, Ninth (I, IV, V以外の多くの和音で使用されます)
Harmonic Seventh (周波数比 4:5:6:7), Diminished Triad (減三和音。周波数比 5:6:7)

種類は確かに多いのですが、調性がある限り、実際に曲中で使われる種類と頻度は限られてきます。
参考:オリジナル讃美歌『主の祝福』

1-6 マニアックな余談
ピタゴラス音律をほぼ完璧に再現する平均律として1オクターブを53等分する53平均律があり、純正律・ジャコっぽいど(長調・短調)をほぼ完璧に再現する平均律として半音を51等分する612平均律、半音を358等分する4296平均律が考えられます。
4296平均律で表された純正律はVOCALOIDのPITパラメータ(PBS=1で半音を8192等分する)よりも精度は上です。

2. サラウンド効果向上委員会:ミキシング編


ニコニコ動画では左右2つのスピーカーの音をいじることしかできませんが(だからニコニコ動画は2ch系と言われる、って違)、パンを振るだけがサラウンド効果ではありません。
パンの他にも、リバーブ、遅延、イコライザもサラウンド効果向上のために利用することができます。

2-1 リバーブ
 後方からの音や天から降ってくるような音を疑似的に再現するためにそのパートだけリバーブをきつくかけます。
 前方からの音でリバーブをかけてやる時も弱くしてみたり、あるいは、原音とMIXするといった方法を試してみたら自分の作りたい音に近づけるかもしれません。
 例えば、大聖堂の雰囲気を出すようなときは、リバーブをきつくかけた反響音と、リバーブを薄めにかけた直接耳に届く音をMIXする、といったことです。

2-2 遅延
  • 速いテンポで拍のはっきりしている曲に限り、あるパートを遅延させることによって立体的で複雑な音響が生まれます。
      1.と2.を使った曲に落葉 剛(落葉P)作曲「ゆめ」の∇×∇=0があります。この遅延は28ms(指定の132BPMで大体64音符に相当)にしています。
  • 人間は目隠しをしていても左右の耳に入ってくる音のタイミングに微細なずれからどちらかから音がしたかを聴き分ける能力を持っています。
      その差は0.5msほど。わたしの持っているWAVE編集ソフトではそこまで細かいことはできませんが、
      前出のDeutsche MotetteのniconicoにUPしたバージョンでは左側のパートは右側を、右側のパートは左側をそれぞれ1ms遅延させています。
      効果は微妙ですがなんとなく音の広がりが増した気がします。

    2-3 イコライザ
      おおよそ2kHz-4kHz帯を増幅すると子音が明確化します。この周波数帯を低減させて逆の効果を狙うこともできます。
      低音・高音の増幅、子音の明確化の他にも、高音域を増幅あるいはカットすることで、音源から耳までの感覚的な距離が変わります。
      Orlando di Lasso (1532-1594) : O la! O che bon, eccho!で試してみました。

    3. いろんな言語で歌わせたい:発音記号編(英語DB用)


    3-0 英語DB用汎用辞書ツール(HIDEV)VOCALOIDの発音も参照のこと。

    3-1 ドイツ語(ウムラウト)
    öは[e]で、üは[I]でほぼ対応できます。
    特にPRIMAとTONIOはオペラ歌手らしく母音をベルカント唱法でいうところの「アサガオの口」のように丸くして発音しているようなので、違和感がほとんどありません。
    本来ならOPEパラメータをいじるところでしょうが、わたしはやったことがありません。
    pfの発音はVELパラメータ(VOCALOID2)をいじってそれぞれのボカロにあったところを探りましょう。
    VELが大きすぎると「パ」行にしか聞こえず、小さすぎるとまったりしておかしな感じになります

    3-2 フランス語(鼻母音)
    "un bon vin blanc"(上等な白ワイン1本)という発音練習があるように、フランス語には4つの鼻母音があります。
    これを近似的にボカロ発音記号に置き換えると[V N][b Q N][v { N][b l O: N]となります。
    本来なら[N]を使わずにBRIパラメータをいじるところでしょうが、わたしはやったことがありません。

    3-3 イタリア語、ラテン語、スペイン語(gn, gli)
    残念ながら、英語DBにこれらの発音に適した発音記号はありません。gnに関してはルカであれば日本語DBのトラックを用意して「にゃ」行を発音させる手もあります。
    英語DBではgnは[n j - ]、gliは前の音節に[ - l]を入れたうえで[l j -]( - は母音)とするのが妥当のようです。

    3-4 ロシア語
    わかりません。ただ、ロシア語の子音には硬音と軟音があり、拗音と聞こえが似ているので、日本語DB向きと言えるかもしれません。

    3-5 マジャール語(ハンガリー語)
    ö [ø], ő [øː], ü [y], ű [yː]についてはドイツ語のウムラウトと同様。
    ny, ty, gy については[n j][t j][g Z]を基本に耳で勝負。
    本サイト内「MÁTRAI KÉPEK」も参照のこと。



    そんなとこかな。いろいろお知恵を拝借できればと思います。
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